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つぶつぶ苺
ジャムパンはイチゴ一択。
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即興小説トレーニングとやらをやってみました。
「死にかけの傑作」というお題でした。これです。
未完になってしまったので、とりあえずの完成をさせて全文置いておきます。
推敲していないから、色々とお粗末さまです。
つづきからどうぞ。






「最後の傑作」

 名匠なんて言われているが、ざまぁない。結局のところ、へぼい作品しか遺せなかった耄碌じじぃじゃないか。
  この百年に出るかどうか、と称された匠がいた。数週間前に脳梗塞で運ばれた奴の容態は優れない。匠の最後の作品と呼ばれることになるだろう陶磁を眺めながら、俺は鼻でせせら笑った。
 職人としては駆けだしの俺から見たって、この作品からはなんの感銘も受けない。色がない、艶がない。形も往年をかんがみれば技巧だけが走っているようだし、なにより、匠の特長と呼ばれた力強さがこれっぽっちもない。
 こんなもん、数年技術を磨いたら、俺にだって作れる。
 開かれた袱紗の上に鎮座したそれを見て、口々に褒めあう奴らの気がしれなかった。死人を悪く言っちゃあいけないだろうが、個人の人格と作品の評価は別物だ。それに、耄碌じじぃはまだ死んでない。
 人々に気を悪くしたのは、俺だけではなかったらしい。名匠の息子――彼は父親の職を継がなかった――も、難しい顔してその部屋を抜けだそうと席を立った。
 障子に手をかけた時に、ちらと俺に目配せする。

 縁側で、俺は彼の隣に立った。
「なんだよ」
「お前、あれをどう思った」
 腕を組んだ彼に、俺は率直な言葉を返す。駄作だ、と。
「お前もそう思ったか」
 彼はにやりと密かな笑みでこたえる。この男にものを見る眼なんてないと思っていたのに。
「オレだってあの頑固じじぃの子どもだ。あんまり舐めるなよ?」
 意地悪そうに目を細めるさまはあのじじぃそっくりだ。じじぃが俺の焼いた陶磁を散々皮肉って評したのを思いだす。あの野郎、目の黒いうちに絶対ひと泡吹かせてやろうと思っていたのに。
 歯噛みする俺をよそに、男は空を見あげる。すぅっと晴れた、透いた空だった。
「じいさんな、どうにもわかってたらしい。天才のカンなのか、老人のカンなのかはわからないけどな。だから、あんな気の抜けたもん焼いたんだと」
「なんだぁそりゃ」
「お前、あれ見て、自分にも作れると思っただろ。そんで、じじぃを越えられるとでも思っただろ。甘いなぁ。アレ見て一瞬でじじぃの思惑を読みとれるくらいじゃなきゃ、まだまだだぜ」
 予想だにしないことを告げられて、俺はとっさに返事ができない。
 彼は俺の頭をわしゃわしゃと撫でる。なすすべもなく撫でられているのは、身長の低さ故だ。男の横顔が笑みを深くする。
「いいんだよ、それで。そういうむこう見ずなところが、じじぃは嬉しかったんだから」
 頭から手が離れる。ぐしゃぐしゃになった髪をといていると、彼はふっと、息をもらした。
「越えてほしかったんだと。じじぃの最後の傑作は、あんな駄作じゃなくて、お前なんだとか」
 彼は俺と目をあわせようとしない。俺も、空のむこうを見ていた。じじぃはまだ死んじゃいないが。
 ぼつり、と声が落ちる。
「期待してるぞ、二代目」
「へっ、父さんに言われなくても」
 変声期を直前にしたテノールが、空に吸いこまれていった。


 


 
 

 

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